先月、五十六歳の読者の方から、一通の長い手紙をいただきました。お父様を亡くされてから、二年以上一人で過ごされ、昨年秋に新しいお相手と穏やかに交際を始められた方です。ところが年末に、成人されたお嬢様から「お母さんがあの人と会うなら、私はもう家に帰らない」と言われ、その晩、眠れなくなったとお書きになっていました。
この手紙は、たぶん、多くの方が抱えていらっしゃる悩みの形でもあります。少し時間をかけて、返信を書かせていただきます。
お子さまは「新しいパートナー」を拒絶しているのではない
まず最初に、落ち着いて覚えておいていただきたいことがあります。成人されたお子さまが新しいお相手に強く反発されるとき、その怒りの本当の対象は、多くの場合お相手ではありません。
拒絶の背景にあるのは、たとえばこういう感情です。お父様・お母様の居場所が失われる不安。「家族」という物語が書き換わることへの恐怖。亡き親への忠誠心。成長したつもりでも、親の変化に大人として立ち会う準備がまだできていない。これらは、四十歳のお子さまでも、ときに十五歳のように揺れるのです。
ですから、「お相手をもっと魅力的に紹介すれば解決する」と思われないことです。解決すべきは、お子さまご自身の時間の中でしか起きない、心の整理です。
やってはいけない三つのこと
- 急いで同居や入籍を決めること。反発されているお子さまに、事後報告で大きな決断を伝えるのは、傷に塩を塗ることになります。
- お相手をお子さまの前で過剰に持ち上げること。「あの人、本当に優しいのよ」と繰り返すほど、お子さまは反発されます。
- 亡き親との思い出を片付けること。写真をしまう、遺品を処分する、命日を忘れる――これらはすべて、お子さまの拒絶を強めます。
時間をかけて、橋をかける三つの段階
この問題は、一回の話し合いで解決するものではありません。数ヶ月、ときに一年以上をかけて、少しずつ橋をかけていく作業です。
第一段階:聞くことに徹する。「お母さんに、お父さんを忘れてほしくないの」「あの人を好きになれそうにない」。お子さまの言葉を、反論せずに一時間、受けとめてください。このとき、「でも」「だけど」と言わないことが、信頼の第一歩です。
第二段階:お相手の存在を、日常の一部として徐々に伝える。「今日、○○さんと鎌倉に行ってきたの」。最初はこの程度の報告だけで十分です。評価や説明を加えないことが大切です。お子さまの頭の中で、お相手が少しずつ「実在の人」になっていきます。
第三段階:中立の場所での、短い初対面。ご自宅ではなく、お子さまの負担の少ないレストランや喫茶店で、一時間だけ。お相手とお子さまが初めて顔を合わせる場は、短く、公共の場所で、期待を乗せすぎずに設計されてください。
お相手に、事情を伝えておく
ここで大事なのは、お相手にもこの状況を率直に伝えておくことです。「実は、娘がまだ受け入れられずにいるの」。これを隠されると、お相手は「自分が原因で母子関係がこじれている」と誤解されることがあります。
五十代、六十代の関係では、成人されたお子さまのことをお相手と一緒に悩むこと自体が、二人の連帯を深めます。隠すより、共有する方が、結果的に関係は強くなります。
それでも、受け入れてくれない時
数ヶ月、あるいは一年たっても、お子さまが頑なな姿勢を崩されない場合があります。このとき、急いで和解を迫らないでください。
白金台にお住まいの六十二歳の方は、ご長男と二年間ほぼ断絶状態にありました。新しいお相手との結婚を反対され、「母さんは父さんを裏切った」と言われたそうです。彼女は、毎月一通、短い手紙を書き続けられました。返信はほとんどありませんでした。
二年後、お孫さまの誕生がきっかけで、ご長男が連絡をされてきたそうです。「父さんのことは忘れなかったのは、わかってる」。この一言に、二年の沈黙がすべて込められていました。
ご自身を責めない
最後にお伝えしたいのは、どうか、ご自身を責めないでください、ということです。再び誰かと出会われることは、裏切りではありません。ご自身の人生を歩く、当然の権利です。
お子さまの反発は、痛いものです。しかし、それはお子さまご自身が成長される過程でもあります。親の幸せを、成人した子がすぐに祝福できるとは限らない。それもまた、家族の真実です。
焦らず、説明しすぎず、でも扉は閉めない。成人されたお子さまとの関係も、新しいお相手との関係も、その態度で、長く守られていきます。